東京チェーサム新校舎建設物語⑦
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金日宇・東京朝鮮第三初級学校15期生
その42・前日は大雨、水抜き(5月22日・水曜日)
『風景』の編集が一段落し、工事現場を訪れた。一階一面のコンクリートの上に水が溜まっていた。前日は大雨だった。工事現場に掲げられている「作業手順 皆で守って…」との横断幕の文字が水面に映っていた。
工事関係者に話しかけると、「水抜きをして…それでもこの三~四日猛暑だというから…工事は計画通り…」。
旧校門あたりに立てかけてある「作業予定」を見ると、この日までは「型枠解体工事」で、翌日からは「仮設工事」がはじまるとのことだ。
いよいよ外観が…そんなことを思いながら道路を一つ隔てたジョナサンの二階から工事現場の全容をスマホに納めた。
その43・運動会の練習は…(5月30日・木曜日)
下校時間まで一時間。放課後は、運動会の練習をしているはずなのだが、運動場を見まわしても、それらしき集団はいない。仮校舎になっている校門の右手の校舎に戻ると、三階から歌声と歓声だ。教室での学年別練習だったのか? 集団下校する児童を見送ることにする。
一階の出入り口の前に、「東京朝鮮第三初級学校」の文字が切り抜かれた、旧校舎の扉の一部が立てかけられている。青々としたサムチュやコチュ、ゴマの葉を見ていると、運動場の方から児童が走って来た。暑さを避けて運動場の隅で練習していたのだろうか。肩にかけた水筒が左右に大きく揺れている。そんな児童の愛くるしい姿を見るだけで心が満たされる。
しばらくすると、児童が一斉に下りてくる。階段に寝転がったり、はしゃぎすぎて、鳴り出したランドセルに付けた防犯ベルを慌てて止めたり、運動会の練習を終えても、まだ力が余っているようだ。
いくつかのグループ別に校門に向かう。「出迎え組はここに集まって」先生の声が響く。「近所に来たからと…」、ハルモニが孫の手を繋ぐ、アボジの後を追う児童がいる。
三日後の運動会が楽しみだ。
その44・「未来に」繋がる運動会(6月2日・日曜日)
大きく「第三学校の未来のために!」と書かれたプログラムをもらって運動場へ。開始三〇分前、すでにカラフルなテントが競技場を囲んでいた。
スタンドまで「…運動会を成功させるぞ…」のシュプレヒコールが聞こえる。キャラクターのチェサミとミレが描かれた紅青得点表の前で学年別に記念写真を撮っている。
一年生が一言ずつ、元気に開会宣言。学年別の入場、左手に自分の名前を書いた小さな小旗を掲げて入場する一年生にひときわ大きな拍手、スマホとビデオで追う保護者たち、スピーカーからは薬剤師、パティシエ、サッカーの選手、恐竜博士、医者…先生、プリンセス…。新入生二一人の将来の希望が流れる。
最近は児童数の減少で徒競走ができない、午前は地域同胞を交えての運動会、午後は焼肉パーティーという話を聞くが、障害物リレー、風船割り、玉入れ、農楽舞、大縄跳び、紅白リレー…いつものチェーサムらしい多彩なプログラムが組まれていた。
支部対抗のリレーのタイトルはウリマルで「新校舎へ!」、日本語では「みんなで帰ろう! 第三へ!」。続く集団体操のテーマは「希望の翼」だ。
康校長は、「来年は…もっと…」。新校舎の建設を終えての運動会が楽しみだ。
中高の体育館に立ち寄る。バスケットコートでは練習試合を、舞台では舞踊部が練習をしていた。
fbに「不思議な空間! バスケの練習試合&舞踊部の練習!」とアップすると、「よくある風景です」、「息子がバスケの練習試合をしてる舞台では舞踊部が練習して、後で録画見ると音楽が入ってます」、「私もバレー部にいながらたまに舞踊部に見入ってボール飛んで来たのに気づかなかった事ありました」とのコメントが、「よくある、不思議な風景」のようだ。
その45・登校途中の児童発見!(6月12日・水曜日)
最寄り駅前で、突然「〇〇トンム!」の声だ。振り返ると、男女四~五人の児童がバス停に向かう女子児童を呼んでいる。
「チャルカラ(気をつけて)」と、声をかけるとキョトンとしている。「チェーサムでしょ?」と言うと、少し怪訝そうな顔をしながらも「アンニョンハシムニカ」の声が戻ってきた。そして、なぜか「アンパンマン!」と叫びながら、女子児童に駆け寄っていった。女子児童は笑顔で、立ち止まっていた。
その愛くるしい後姿をパチリ。
一瞬の出来事。今日は何かいいことがありそうだと思った。
その46・アボジ会主催のチャリティー焼肉(6月23日・日曜日)
開始二〇分前に着いたが、すでにテントの中には肉を焼く煙りが充満していた。
ちびっ子サッカー大会や夏の合宿支援のためのアボジ会主催のチャリティー焼肉モイム(集い)、今年は新校舎建設中だというので仮校舎がある東京中高のバスケットボール場で催された。
アボジたちの親睦を深める場でもある。アボジたちは学年別に、オモニたちは別のテーブルで七輪を囲んでいた。
ほぼ満席、顔見知りの豊島支部委員長に促され席に着く。
「新校舎建設真っ盛り…東京中高での最初で最後の…アボジ同士の交流も深め…」
梁会長の短い挨拶につづき、崔直前会長が「目標は二〇万円です。思いっきり飲んで…」と乾杯の音頭を取った。
偶然隣に座ったアボジとは「気まずい思い出」がある。
私・「娘さんは…」
アボジ・「保育士になるって大学に…」
その子が東京チェーサムを卒業する年、『風景』でアンケートを行い、誌面に結果を載せながら、その子の回答だけが抜けてしまったのだ。すでに配布後だった。寂しい思いをさせてはと、刷りなおして再配布した苦い出来事があった。
「朝大生活をエンジョイしているようで…夏休みには…」と、娘の話を楽しそうにするアボジの姿に心が和らいだ。
暫くすると、目が合うたびに声をかけてくる、高二の男子生徒がいつものように笑顔で近づいてきた。握手からハグ。バスケをしている。また背が伸びたようだ。
そんな二人の様子を隣に座ったあのアボジが不思議そうに見ている。息子だというのだ。
五年生のとき、朝大にチェーサムの児童と一緒に社会見学に行った時のことを話した。軽音楽団が演奏を始めると、この子ともう一人の子が二人で舞台上に上がり左右に手を振り、踊り始めたのだ。引率の先生は一瞬困り顔、朝大生は大笑い。その写真は、『風景』の表紙に。忘れられない出来事である。そんなこともあって、彼がチェーサムを卒業し、東京中高に進学後も声をかけあうように。そんな経緯を話す。「姉弟だったなんて…」。アボジは屈託のない笑顔で焼き肉を頬張る息子を頼もしそうに見つめていた。
テントの前で、練習を終えたサッカー部とバスケット部の児童が紹介され、大きな声でうたい始めた。オモニたちは一斉にスマホで子どもたちの姿を追うが、アボジたちはチャリティーへの協力ということでか、振り向きもせず、飲み続けていた。そのアボジは四年生の少し大柄な息子を末っ子だと自慢げに紹介してくれた。とても仲のいい、清々しい家族だ。
アボジ会の副会長と学年別の代表が一言ずつ。
「楽しく過ごして、児童たちのためになるのなら」、「学校のために一生懸命…」、「学校を支えるためにできることは…」、「大山に戻れる日が…とてもうれしい」、「子どもたちが通うチェーサムのために力を合わせて…」、「よろしく…コマッスムニダ」
「引っ越しのときは積極的に協力を…」との言葉に、建設が順調に進んで、一日も早く新校舎落成を迎えたいとの期待を感じた。
「まだ、目標までは…どんどん飲んで…」。そんな言葉もアナウンスされていた。
焼き肉を食べ終わった児童たちは一斉に運動場に駆け出していっていた。
家に戻って、高2の彼が踊った時の『風景』を取り出してみた。二〇一三年九月に刊行した21号だ。「東京近隣の朝鮮学校・周辺ストーリー」のコーナーに「五年生が朝大で社会実習」とのタイトルで載っていた。
「…講堂に移動して、軽音楽団の公演。…二人の男子児童は始めから手拍子を打ち、腰をフリフリしていた。『ウルジマセヨ(泣かないで)』と、曲目が告げられると、児童からは『ウルジアナヨ(泣きません)』だ。
そのうち、その二人が舞台に上がり、他の児童を呼び込んでいた。ノリノリだ。…そんな児童の姿を見ていた大学生は、『そこまでやるか』というまなざしで、それでも嬉しさを隠せずにいた。…案内を務めていた金先生は、『こんなにノリノリの舞台は初めてだ…』と、驚いていた。」
『風景』の積み重ねがもたらしてくれた思わぬ嬉しさだ。エピソードが時間を経て、新しいエピソードを生んでいく。書き続けることの大切さを実感した。
その47・久しぶりにぶらり仮校舎へ(6月27日・木曜日)
仮校舎の入り口の正面に「東京第三水族館」の大きな展示物、 中心に描かれた潮を吹く鯨、潮の上でキャラクターの「チェサミ」が泳いでいる。タコとイカ、クラゲ、カニ、ヒトデに目をとられていると、水中眼鏡をした「ミレ」が泳いでいる。全校生による合作なのか? 楽しい「連中」が迎えてくれた。
二階の踊場には「私たちの希望 新校舎と共に」の大きな文字の下に完成予想図が新校舎のイメージ写真と共に飾られていた。
そこにもウリマルと日本語で「希望」という文字が躍っている。「旧校舎よ さようなら、新しい姿で再会しましょう!」、「全てを新校舎建設のために!」、「子どもたちの輝かしい未来のために!」との文字、来春完成する新校舎への児童と教職員、保護者と学区同胞の切なる願いがうかがえる。
心地よい学校ならではのざわめきだ。
教室が並ぶ三階の廊下には、韓国の支援団体から贈られた「朝鮮学校にも学ぶ権利を!」、「高校無償化裁判勝利!」の大きな横断幕が貼り出されていた。
「新校舎建設ニュース」―旧校舎解体から骨組みの完成目前の六月二四日までの建設過程の九点の写真が貼り出されている。
「三学期から新校舎での生活スタート!」の文字も。写真が付け加えられるたびに新校舎完成が近づく、チェーサムにぶらり来る楽しみが一つ増えた。
康校長から「新校舎の骨組みが…」と、工事の進捗状況を聞いて、新校舎の落成を待ち望む児童たちの授業をのぞき、四年生の図工の時間をパチリ。
「そうだ! 京都ではなく、新校舎建設現場に行こう!」(廊下で会った児童の言葉)― 子どもたちのわくわく感が伝わって来た、そんなひと時だった。
その48・賢い! 二年生でした。(7月1日・月曜日)
東京中高での用事をすませ校門に向かっていると、前に体育の時間を終え、仮校舎に戻っていく児童、片手に縄跳びを持ち、ピョンピョン跳ねるように校舎に戻って行く。
仮校舎の入り口からウリマルが、早口で聞き取ることができない。
そんなかれらに「몇학년(何年生)?」と、声をかける。
一斉に「안녕하십니까(アンニョンハシムニカ)」と「이학년생입니다(二年生です)」の「二重奏」だ。
とても賢い二年生、何日も続くうっとうしい天気を吹き飛ばすような、清々しい気持ちで校門を後にすることができた。
その49・上棟式も簡素に(7月2日・火曜日)
太い鉄骨、二階建なのに壮大な感じがする。工事の日程表には、この週いっぱい、鉄骨組み立て工事と外部足場組立と書かれていた。
スマホで動画を撮りながら、工事現場をゆっくりひと回り、向かい側のジョナサンの二階からは何枚も写真を撮った。幾度となく見入った完成予想図が目にちらつく。
康校長と教育会の洪先生もまた、組みあがった鉄骨にスマホを向けていた。
この日は、上棟式だというので、工事現場に足を踏み入れることができた。しばらくして、李建設委員長と康事務局長、地元支部の姜委員長が着くと、早速、工事関係者が説明を始める。
屋上の運動場のアーチも…ここがオープンスペースで…一二日に行政の中間検査を…
工事は順調に進んでいるようだ。六年生が新校舎で一日でも多く学べるよう、早期完成が望まれている。
本来、屋上のアーチは、校舎の完成後に予定されていたが、工期短縮のために同時進行したという。
どっしりした鉄骨、思ったより広く感じられた。
「ここがオモニたちもバレーボールもできる多目的ホールを兼ねた…」、「教員室の隣に語らいの場が…」、「特別教室は…」、「階段が思ったよりなだらかで…」
工事関係者とのやり取りも、思わず笑いが出るなど和気あいあいだ。教育会の洪先生は、「キムチ売り場は…」とか、「炊事場が…広い…」とか、気持ちは「新校舎モード」に入っていた。
七月下旬には、教室が並ぶ二階にも上がれるようになるという話に、「まず六年生に見せたい」と康校長。
上棟式も工事の進行を妨げないよう、昼食時間、簡素に催された。
早速、仮校舎の「新校舎建設ニュース」のコーナーに一〇枚目の写真として、初めて建設中の新校舎の内部写真が貼り出されるのであろう。それを見つめる児童たちの姿を想像しただけでウキウキする。
建物の全景をスマホに納め、心躍らせ現場を後にした。56