ソルマジ公演…その後
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李仙香・京都在住
萩響が祖国で行われるソルマジ公演を知ったのは、彼女が初級部一年生の時だった。
朝の全校生の朝礼で、六年生のオンニがソルマジ公演に参加するためウリナラを訪問することになったと紹介があったのだ。
好奇心旺盛な彼女は、帰宅後私の顔を見るなり聞いてきた。
ソルマジ公演って何?
ウリナラで何するの?
…彼女の質問に私は自分の知っている内容を伝えた。
萩響の質問はまだまだ続く。仕事を終えて帰ってきたアッパにも質問の嵐。
そこでアッパがこんな言葉を口にした。
「アッパ、ソルマジ公演観たよ。」
「なんで? いつ?」
「アッパ、朝大四年の時にウリナラに六か月間行ってたんやけど、その時にソルマジ公演観た。」
「すごい!!! どうやった???」
こんな風なやりとりが、萩響に「ソルマジ公演」をインプットした。そしてその時に彼女は「高学年になったら舞踊部に入って、ソルマジ公演に参加する」という目標を立てたのである。
それから四年、萩響は五年生の時に第二八次在日本朝鮮学生芸術団の一員としてソルマジ公演に参加した。そして帰ってきたその日、関空で私とアッパの顔を見るなり「またソルマジ公演行きたい!」と宣言したのである。
そしてその翌年、萩響が六年の時「初級部六学年で若干名ではあるが、話術部門がある」という話に、彼女は飛びつき、審査を受け、なぜかパスして二度目のソルマジ行の切符を手にした。
そろそろソルマジ公演の参加費を振込もうと思っていた時だった。担任のソンセンニンから電話があった。
「エボラ出血熱による事情で、今回の在日朝鮮学生のソルマジ公演参加が中止になったと連絡がありました。」
私も娘もそれっぽい噂が流れていたので、驚きは大きくなかった。それにまだ初級部生、今後も機会があると思うと諦めがついた。
あれから一年。中級部生になった萩響に第二九次在日朝鮮学生芸術団の話が舞い込んできた。
昨年の合格者は希望すれば参加出来るということ。
私も萩響も前回の経験を生かして、準備をする…というわけではなく、出発直前にバタバタ買い物に走り出発前夜に荷物を詰めた。
萩響は徹夜で年賀状を書いたり、机の上を片づけたりしながら出発時間を待った。一睡もせず二度目の祖国へと旅立ったのだ。
祖国訪問中の四五日間、二度の電話と朝鮮新報社記者がせっせせっせと更新してくれる朝鮮新報HPのおかげで不安も寂しさもなく過ごした。
そして迎えた一月一四日、関西国際空港。飛行機が予定より早く到着して子どもたちが中で待機しているという情報が行き交いお迎えに訪れた親たちは夕飯を中途半端に食べ残し、ゲートに向かう。そわそわしながら開くのを今か今かと待ちわびていた。でも予定時刻になっても誰も出てこない。前回よりも多い西日本組。お迎えの数も多いから通行人たちは「芸能人待ちですか?」って聞いてきたりもした(笑)
当初の予定時刻より少し遅れて、ゲートからソルマジ生たちの姿が見えた。
拍手と歓声が起こりあちらこちらで子どもたちとアッパ、オンマたちが抱き合う姿がある。
少し離れたところで待っていた私たち夫婦のところに萩響が満面の笑みを浮かべて走ってきた。
そして私に抱きつきながら言った言葉。
「オンマ、今年もソルマジ行く!」
予想通りの言葉に私もアッパも苦笑い。
それは追々考えるとして、帰りの車の中でも萩響のマシンガントークは続いた。
祖国で過ごした四五日間の日々、そこで出会った一七〇名のトンムたちのこと、引率ソンセンニンとの思い出…どれもこれも前回の祖国訪問時とは違った、成長した彼女の思いであり感想だった。
祖国から帰ってきてからの萩響は前回にも増してお利口である。
朝は目覚まし時計が鳴ると起床する。自分のことは自分でする。以前にも増して自分の考えをしっかり持ち、人に上手に伝えるようになった。そして何よりも祖国の愛に応えよう、その為にもハッキョでもっともっと頑張ろうという気持ちが大きくなったように思う。そして朝鮮大学に進学して、ウリハッキョソンセンニンになりたいとの思いが確固たるものになりつつある。
萩響はこう話す。
前回は五年生だったので芸術団の中で最年少だった。今回も声楽組の中では中一が最年少だった。だから前回と今回、オンニたちが私にしてくれたことを下級生たちにしてあげる番なんだ。だからやっぱり今年もソルマジ公演に行きたい。なんとももっともらしい理由で私とアッパを「丸め込もう」とする。
でも私は萩響の思いに「丸め込まれ」たいとも思う。
日本では学べない沢山のことを四五日間で学んだであろう彼女の姿は、眩しいくらいにキラキラ輝いているから。
なので、萩響が帰ってきた翌日から私が五〇〇円貯金を始めたのだ。
先日、第二九次在日朝鮮学生芸術団引率ソンセンニンから祖国での様子を収めたDVDと手紙が届いた。その数日後には、声楽組のソンセンニンから手紙と写真のデータが届いた。
この手紙とDVDは二九次ソルマジ生たちの一生の宝物になるに違いない。辛いことがあった時、悲しいことがあった時、きっと萩響の背中を押してくれるだろう。正しく導いてくれるだろう。(2015・3・14)36