4.24教育闘争から70年 奪われた学びの機会
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「4・24」以前に引き戻そう
佐野通夫
阪神教育闘争を描いた金慶海『在日朝鮮人民族教育の原点』(田畑書店、一九七九年)に次の記述がある。
「占領軍と日本当局は、朝鮮人学校の教室明け渡し・学校閉鎖の直接的な理由を、朝鮮人たちが日本の公立学校の校舎を使用しているために教室が不足するからだ、とした。」(110頁)
「朝鮮人学校が公立学校の校舎を借りていたのは、神戸市内と尼崎市内だけで、計六校(三十一教室)に過ぎないということがわかる。」(113頁)
教室不足など、弾圧の口実に過ぎないことを明らかにするための文脈であるが、私は神戸・尼崎の朝鮮学校が公立学校の校舎を利用して行なわれていたことに意味を見ている。現在、神戸市立長田南小には「西神戸朝連初等学院跡 朝鮮建国国民学校跡 1946年~1948年」という石碑が建てられている。占領軍・日本国政府の朝鮮学校弾圧の名目どおり、朝鮮人が日本の学校に通わなければならないなら、いずれにしてもそれらの教室は、そのとき朝鮮人学校として使っていた子どもたちの席で埋まるではないか。子どもたちは行政によって校舎を提供される権利を有しているはずだ(そのとき、日本国政府が口実としたように朝鮮人が日本国籍を有していても、いなくても)。
一九四九年五月二五日には、次の二つの請願が衆議院本会議において採択され、内閣に送付された。
1949年4月19日受理 文部委員会付託
朝鮮人学校教育費国庫負担の請願(第1035号)
請願者 東京都板橋区赤塚町四百七十一番地 金 薫外二名
紹介議員 春日正一君 今野武雄君 渡部義通君
本請願の要旨は、わが国在留の朝鮮人は教育基本法によって民族的差別なく教育を受ける権利を有し、法律に従い納税その他あらゆる義務を果しているのであるから、朝鮮人学校教育費に対し国庫負担されたいというのである。
1949年4月22日受理 文部委員会付託
朝鮮人教育問題等に関する請願(第1226号)
請願者 東京都中央区槙町一丁目三番地 元 容徳
紹介議員 今野武雄君 渡部義通君
本請願の要旨は、政府は在留朝鮮人の民族教育の自主権を尊重して左の事項を実施されたいというのである。(一)朝鮮人学校への教育費支給を法文化し、且つ教育費の全額支給、(二)千九百四十八年四月二十四日の朝鮮人学校事件による投獄者の即時釈放、(三)大学法の撤回及び教育予算を削減しないこと。
並びに六、三制の国費による完全実施。
もっとも、この請願について兵庫県知事から照会があり、文部省管理局長は次のように答えている。
別紙要旨のような請願が去る五月二十五日衆議院本会議において採択され、内閣に送付されたことは事実であるが、文部省として此の点に関し左の如き見解を持っている。
- 朝鮮人の学令児童生徒が公立の小学校、中学校、盲学校又はろう学校に就学する場合には、日本人学令児童、生徒がこれらの公立学校に就学しているのと現在なんら差別されていない。
- 学校教育法によって認可された朝鮮人私立学校に対しても日本の一般私立学校と同様に取扱う。日本人の一般私立学校に対して補助金が交付されていない現在、朝鮮人私立学校に対してだけ補助金を交付することはできない。
文部省の立場は今と変わりなく、日本の学校に入れて(上の神戸の事例を見ると入れる気もなかったのであるが)朝鮮人の民族性をはぎ取ろうとするものであるが、少なくとも衆議院で朝鮮人学校の教育費国庫負担をしろという請願が通っているのである。
一九八〇年代、九〇年代、私たちは朝鮮学校の社会的地位を向上させてきたと思っていた。地方自治体からの補助金を勝ち取り、JR通学定期券を認めさせ、高体連、中体連のスポーツ大会への参加を認めさせてきた。しかし、二一世紀のこの逆風は何だ。市や地域住人との話し合いで隣接した公園を使用してきた京都第一朝鮮初級学校は、ヘイト集団によって閉校に追い込まれた。近隣には廃校となった公立小中学校があった。それらの校舎・校庭を朝鮮人も使う権利があるだろう。それらの校舎・校庭が無償貸与されていれば、ヘイト集団の騒ぎも起こしようがなかったはずだ。国際社会からは批難を浴びている「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対して、国会で質問する議員の一人もいない。
状況を4・24以前に引き戻さなければならない。七〇年前、阪神教育闘争は朝鮮人教育対策委員会責任者 崔根と文部大臣 森戸辰男との間で在日本朝鮮人連盟中央総本部文教部長 元容徳を立会人として、「一、朝鮮人の教育に関しては教育基本法及び学校教育法に従うこと。二、朝鮮人学校問題については私立学校として自主性が認められる範囲内において、朝鮮人独自の教育を行うことを前提として、私立学校として認可を申請すること」という覚書が交わされていちおうの終結を見た。もっとも、一年にしてこの約束は日本国政府によって破られるのであるが。「高校無償化」からの排除問題について、下っ端の回答することもできない役人でなく、答えられる役人を引っ張り出さなければならない。補助金についても、知事に伝えるという小役人でなく、知事を引きずり出さなければならない。4・24、七〇周年で時代を悪くしていては先輩たちに申し訳ないではないか。
(こども教育宝仙大学)
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