朝鮮大学校の人工池で繁殖したカルガモのその後(第二報)
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鄭鐘烈・朝大自然科学研究所野生生物研究室室長
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二〇一七年九月刊行の本誌で朝鮮大学校の人工池でのカルガモの繁殖状況を第一報として書きましたが、去年(二〇一七年)繁殖した親子が引越しする前の八月一一日(ふ化後一九日目)までの観察記録でした。今月号では、その親子のその後について報告します。
その前に本校でのカルガモ繁殖の記事が、八月二四日の「東京新聞」朝刊で報じられました。
1.思いもしなかったカルガモ親子のその後
大学で初めて繁殖した五年前(二〇一二年)は、ふ化後二〇日目に、二回目の四年前(二〇一三年)には、ふ化後二七日目に引越しをしています。この親子(二〇一七年繁殖)もこの時は、後二週間もすれば四年前(二〇一三年)と同じように無事引越しをするものと確信していました。
しかし、この原稿を書いている一月五日はカルガモがふ化(七月二三日)して一六七日目になりますが、すっかり成長したヒナは何と人工池にそのまま留まっています。
⑴滞留日数167日が意味する事
まずは大学で繁殖したカルガモ親子の引越しまでの最長記録を大幅に更新した事です。
それに日本全土でのカルガモ親子の引越しまでの最長記録までも大幅に更新し続けている事です。
日本全土でのふ化後引越しまでの最長記録としては、東京の三井物産ビル人工池で一八年前の二〇〇〇年五月二四日にふ化したヒナが八月一六日に引っ越した八四日目が残っているだけです。このことから、この記録も優に二倍越えで更新し続けると思います。他に記録が無ければ、大学での今回の記録は正確な最長記録として残ることになります。
⑵最長記録は更新しているが新たな心配発生
しかしこの間どこかで大学よりも長い期間滞留した記録が無いかを念のため、日本野鳥の会に問い合わせてみました。
野鳥の会の回答は、朝鮮大学校のように正確に観察した記録は現在も三井物産の記録以外はないとの事でした。記録としては残っていないが、最近カルガモ親子がなかなか引っ越さないという問い合わせが結構あるとの回答でした。特にエサを与えている場合だそうです(大学も給餌)。しかしこの問い合わせの後どうなったかははっきりしてないそうです。
野鳥の会では最近カルガモが人馴れし、その場から離れないのは、もしかすると飛び立ちのための筋力が鍛えられなかったためその場に留まっているのではないかと心配していました。本来、カモ類はヒナの時期に地上をよく歩き飛び立ちに必要な筋力を鍛えているが、池の中にだけいるヒナは飛び立つ筋力が不足しているので、飛び立つことができず、そのまま居座っているのかもしれません。
動物園には親からはぐれ保護されたカルガモのヒナや傷ついたヒナが持ち込まれますが、大変なのは大きくなった後、野生復帰させるときに上手く飛び立てないそうです。
確かに本校のヒナはふ化後一〇〇日以上過ぎていましたが、まだ一度も飛んだ姿を観察していませんでした。学生たちからも「このカモたちは飛べるのですか?」と何回か質問されました。でもその都度、何の躊躇もなく、「勿論、飛べるはずだよ!」と答えていましたが、本当に飛べないのではないかと心配になってしまいました。
⑶飛び立ちのための筋力強化対策
大学のカルガモも本当に飛べないのではないかと不安になり、次の日の一一月一八日(一一九日目)からカモたちを池の外に出し飛び立ちに必要な筋力を付けさせるための対策を立てることにしました。まずは池の中に造っていた餌場を岸の上に移動し、陸地を歩く機会を多くするように試みました。
餌場を移した一時間後には新しい餌場に上がってきて餌を食べ始めたので少しほっとしました。
次の日嬉しい知らせがありました。筋力を付けるための対策を立てた二日前の一一月一六日(一一七日目)午後五時三〇分、あたりは暗く外灯が点灯した中庭の池の周りを四羽が一列になって行進している姿を確認し動画と静止画の撮影にも成功したとの思いもよらなかった朗報でした。
親は居なくても、ヒナたちは暗くなった後、中庭を歩き筋力を鍛えていたことが確認できました。
⑷飛び立つ瞬間のベストショット
次は飛び立ちの確認が出来れば万々歳です。
良いことは続きました。対策を立てた二日後の一一月二〇日〈一二一日目〉、餌のある岸辺から横の芝生まで歩行移動したカモたちが芝生をついばんでいました。もしかすると池まで飛んで帰ってくれるかもしれないとカメラを構えて待つことにしました。今日も歩いて池に戻るのかなと諦めかけたその時、二羽が一緒に飛び立ったので慌ててシャッターを切りました。写真の出来はどうであれ、やっと飛び立ちの瞬間を確認することが出来たことへの安堵感と喜びがこみ上げてきました。後で写真を確認すると、飛び立ちの瞬間を上手く捉えたいい写真でした。
また岸辺から池に飛び込む姿も観察でき、飛び立ちに必要な筋力は十分に鍛えられていることが分かり本当に万々歳です。
一二月四日(一三五日目) 二一時頃には、三羽が一緒に図書館前から飛び立ち池の周りをまわって着水、その後中庭を歩き回っているのを撮影することもできました。
2、長期滞留で初めて明らかになった事
⑴ヒナの親離れ
ヒナの親離れを観察したのは、二〇一三年の繁殖時で、この年はヒナのふ化から二七日目に大学横の新堀用水に引越し、来年の繁殖期ごろまで、親子はずっと行動を共にすると思っていたのですが、六月二五日(引っ越して一一日目、ふ化後三八日目)に比較的大きなヒナ三羽が母鳥と離れ完全に別行動をとるようになりました。母鳥は別行動のヒナが近づくと攻撃して追い払います。親離れを促しているものと思います。このようにしてヒナ三羽は親から離れ無事自立していきました(詳しくは第一報で)。カルガモ親子の引越し後の観察報告がほとんどないことから、このときは親離れの典型的な形だと思っていましたし、今年も引越し、親離れと順調に進むものと思っていました。
しかし今年は引越しからつまずいてしまいました。母鳥は引越しの準備のためヒナが池から出てくるように鳴き声で呼ぶのですが、いくら呼んでもヒナたちは池から出てきません。親鳥は何度も何日も繰り返し試みますが、効果はありませんでした。今までは引越しの二〜三日前には親の鳴き声に反応し池から出て中庭を歩き回り準備らしきことが行われていましたが、今年のヒナたちは例年とは異なった行動をしていました。
二〇一三年のヒナはふ化後二七日目に引越し、三八日目に親離れ、六〇日目には二度目の引越しをしていますが、今年は六〇日が過ぎてもそのまま池の中です。この間も母鳥はヒナたちを呼び続けました。この間、母鳥とヒナが一緒に池の外にいるのが観察できたのは五五日目の一回だけでした。母鳥は六〇日目以降大学の池から居なくなり、子供たちのことが心配なのか、時たま訪れ無事を確認していました。
⑵60日目以降の親鳥の行動
順調に引越しした場合とは違う親鳥の行動が観察されました。
今回の母鳥の行動
- 9月23日(62日目) 母鳥飛来
- 9月28日(67日目) 親鳥 オス、メス一緒に飛来
- 9月29日(68日目) PM3時 母鳥飛来
- 10月3日(72日目) 母鳥飛来
- 10月6日(75日目) 母鳥飛来
- 10月12日(81日目) 母鳥飛来
- 10月13日(82日目) 母鳥最後の飛来
この日母鳥を見たのが最後になりました。
母鳥は自立したヒナに安心したのか根負けしたのかその後姿を見ることはりませんでした。
親鳥の行動で今までとは違った行動を観察することが出来ました。
ペアを解消しているはずのカルガモのペアが、九月二八日(ヒナふ化後六七日目)一緒に飛来したことです。
この時期カルガモは、ペアを解消しており、次の年のペアは一二月から二月頃に形成されるとなっているので、この時期ペアで行動するのは珍しいことだと思います。メス鳥が母鳥であることは、ヒナたちとのふれあいを見ていると間違いないのですが、オス鳥は春の時期ペアであった同じオス鳥かは、確定できません。
動物園に問い合わせてみると、飼育下でのカモ類(標識をしている個体)では、まれに連続してペアを形成する個体があるそうですが、多くは毎年違う個体とペアを形成しているそうです。野生では、個体識別ができないので判別は不可能です。
⑶母鳥が完全に来なくなった後のヒナたちの行動
親鳥が来なくなってからも四羽のヒナたちは今までと変わりなく、仲良く落ち着いた生活をしていましたが、一〇日後位から一羽が離れて行動することが目立ち始めました。二〇一三年にも引っ越した後一〇日目位から一羽が群れから離れています。
➀失踪事件
一羽の別行動が始まって一か月後の一一月二八日(一二九日目)
池にヒナが三羽しかいないとの報告があり、急いで池に行ってみるとバードクラブの学生やいつも関心を持たれている先生方も心配そうに池の中の三羽のカルガモを見つめていました。
そこで最後に四羽を見たのはいつかを確かめると、前日の午前中までは確認していましたが、その後の行動に関しては誰もわかりませんでした。
この時点では、飛んで行ったのを見た、温室の近くで骨が付いた羽根をひらってゴミ袋に入れた等の情報から、無事飛び立っていった(希望的予測)、夜間陸上を歩行中猫に襲われた(絶望的予測)の二通りが考えられるだけでどうすればいいか分からない状態でした。
一羽がいなくなってから三週間後思いもよらなかった朗報が寄せられました。
バードクラブの学生に外国語学部二年の李琇蓮さんと三年の鄭利香さんがら大学の校門前で一一月二七日に歩いているカルガモを撮った写真と動画が送られてきたとの嬉しい知らせでした。
撮影された場所は、これまでの二回の引越し時と同じ大学と新堀用水の間の道路上でした。最悪の事態でなく最良の結果を証明してくれた本当に有り難い写真でした。今回も学生たちの写真で助かりました。大騒ぎした失踪事件も無事解決です。
②親鳥がいなくなった後のヒナと人との距離
親鳥と一緒にいる時は、親鳥が人を警戒するのでヒナも親鳥が取る人との間隔と同じ間隔を取り、あまり近づいてきません。親が池に来なくなってしばらく経ったころからヒナと人との距離が徐々に近づいてきました。特に給餌のため車で池に近づくと直ぐに車が止まっている池の淵まで集まってくるようになり警戒心も薄れてきています。ヒナの時から人工給餌で刷り込み(インプリンテイング)され人に完全に慣れた個体と野生の個体との間位の感じです。
親がいなくなりヒナだけになると危害を加えない限り人への警戒心も薄れてくるようです。
第2報では初めての事だらけで分からないことや、ハラハラすることなどが重なりましたが、たくさんの学生達や先生方の協力で全てが良い方向で解決されホットしています。第3報もいろいろな事(いつまで大学に? 次の繁殖期に親鳥が来たらどうなるの? 縄張り争い? 同居? 等々!!)が起こると思いますがご期待ください。
最後に大学の先生が「朝鮮新報」に投稿して下さった心温まる児童詩「ひっこさないよ」(동시「이사를 아니 가요」47
45号掲載の第一報の内容
- カルガモとは
- 人工池でのカルガモの繁殖
- 待ちに待った朝大でのカルガモの繁殖 初産卵・再飛来・悲願の繁殖成功・子育て・引っ越しの日
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