教育援助費と奨学金が送られてきた日(再現1957.4.19)
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朝鮮戦争停戦から三年、復興のさなかの一九五七年に祖国から教育援助費と奨学金が送られてきて六〇年になる。一九五七年四月から一六二回、総額は四七七億八千七九九万三九〇円に達する。(二〇一六年四月現在)
送付の経緯、感激、対応などを「朝鮮民報」(現「朝鮮新報」)の紙面をかりてふりかえってみた。
第一報は、四月二五日付だ。一面上段に「祖国から巨額の教育費と奨学金!」「共和国赤十字会から在日教育会に」「日貨で一億二千余万円」とのタイトルで、「KNS―東京」発の記事(別稿)を載せた。一九五五年一〇月に提起され実現に至る経緯にふれ、、「巨額」の教育援助費と奨学金は、朝鮮赤十字会が海外同胞援護委員会に委任され、在日本朝鮮人中央教育会宛てに、二回に分けて、英国ポンドで送られたと、報じている。
一面には、中央教育会常任委員会の声明(別稿)と、総連中央常任委員会の声明を掲載、社説のタイトルは、「民主民族教育のための祖国の貴重な配慮に報いよう」だ。
四月二七日付(当時「民報」は火・木・土曜の週三回刊行)の一面トップには、笑顔の生徒の大きな写真に「感謝と歓喜に沸きたつ同胞たち」のタイトル。「すべての在日同胞が限りない感謝と歓喜に沸いている」と、李珍珪総連中央教育部長の談話、学父母、生徒、教職員、各団体の驚きと喜びの言葉で紙面が埋められている。
李教育部長は、「祖国! 祖国がこんなにも偉大でありがたいものであることを感じたのは初めてであり、だれもが生まれて初めて体験する感激である。…まだ一部の学校では二部制、三部制の授業を行っており、外貨事情がけっして潤沢ではない事情を考慮するとき、送ってきたお金がいかに貴重であるかということを…」と。
二面には、「喜びを共に分かち合い」と日本各界人士五人の談話を掲載。日本社会党の高津正道衆院議員は一九五五年一〇月に訪朝したとき金日成首相から「依頼」され、実現に奔走したことを述べている(別稿掲載)。
韓徳銖総連中央議長は「有史以来のこと」との寄稿文(別稿掲載)で、「教育費と奨学金は…教育活動の力の源泉となり、生命水となるだろう」と書いている。今でもよく使われる「生命水」は、この時、韓徳銖議長による言葉である。
四月三〇日付の「朝鮮民報」は、「感激にわく各地の同胞たち」の特集を、五月一四日付では、「諸般対策」を講じるために召集された教育会と教職員同盟の臨時合同中央委員会の詳報(別稿)、民団と中立系学校にも支給するとの提議書を載せた。五月一三日付では、合同中央委員会で採択した、すべての同胞に送るアピール文とともに、「在日同胞だけではなく、在米同胞をはじめすべての海外朝鮮同胞に大きな希望と勇気と確信を与えている」と、在米同胞たちの「感激」の記事。ハワイ同胞から総連中央に送ってきた手紙と、「朝鮮民報」ハワイ支局長の本社宛ての手紙(別稿)が掲載された。(注・ハワイ支局が設置されたのは、「朝鮮民報」の前身「解放新聞」当時の一九五〇年四月)
ここに掲載する報道・談話・寄稿文・手紙などを通じて、読者の皆さんが、一九五七年四月一九日、祖国から初めて教育援助費と奨学金が送られてきたその日を「体験」することができればと思う。
(「記録する会」)
第一報祖国から巨額の教育費と奨学金! (「朝鮮民報」1957・4・25)
【KNS―東京】一九日、朝鮮中央通信によると、わが国では、在日朝鮮人子女の民主民族教育を支援するために、教育費と奨学金を送付することへの各界の要求を支持し、その実現のために努力してきたが、最近朝鮮赤十字会中央委員会は、朝鮮海外援護委員会の委任により、在日朝鮮人子女のための教育費と奨学金として二回にわたって五千万ウォン(朝鮮貨幣)に該当する一二万余ポンド(英国貨幣)を在日本朝鮮人中央教育会に送った。
注=朝鮮民主主義人民共和国は以前から在日朝鮮公民問題に深い関心を持ち、在日朝鮮公民の諸般の民主民族的権利擁護のために深い配慮を示してきた。
特に、大村収容所に不当に抑留されている朝鮮公民問題の正当な解決とともに、在日朝鮮人子女の民主民族教育の保障とそれに関する物心両面の援助に格別な配慮を示し、その具体的な対策まで提示してきた。
在日朝鮮人子女のための教育費と奨学金の送付問題が正式に提起されたのは一九五五年一二月二九日付の在日朝鮮公民問題と関連した南日外務相の声明だった。その後、共和国政府は訪朝した日本国会議員団との共同声明をはじめ機会があるたびに、この問題の早急な解決を強調する一方、北半部の各階層も全人民的な運動で、この実現のために努力してきたが、このたびついに具体的に実現する段階に至った。
しかし、朝鮮貨幣一円は日本貨幣約三円に該当し、英国貨幣ポンドと日本貨幣円との校庭換算率は一ポンド対一千八円なので、このたび送付した教育費と奨学金は日貨で換算すると約一億二千余万円に達する。
声明子弟教育は新たな発展段階に在日朝鮮人中央教育会
このたび朝鮮赤十字会は祖国の海外同胞援護会の委任を受け、在日朝鮮人子女たちのために教育費と奨学金を二回にわたり朝鮮貨幣五千万ウォンに該当する日貨で一億二千一〇九万九千八六円を在日本朝鮮人中央教育会に送ってきた。
本教育会は、すべての在日朝鮮同胞とともに、長年懸案として、期待し努力をしてきた教育費と奨学金を送ってくれたことに対し、祖国の同胞と朝鮮民主主義人民共和国政府の暖かい配慮に心から感謝する。
また、その実現のために惜しまぬ努力を継続してきた訪朝日本国会議員団をはじめ日本の各界各層の人士に心からの感謝の挨拶を送る。
これはまた、共和国政府が終始一貫在日朝鮮公民の諸問題に深い関心を持ち、在日朝鮮公民の民主的民族権利、特に在日朝鮮人子女に対する教育を援助する政策を具体化したこととして、その政策の正当性を物語るものである。
周知のように、在日朝鮮人は8・15解放後、一〇余年、あらゆるあい路と困難を退け、独立国家の公民として自主的民主民族教育の発展のために献身してきた。
そうして今日、東京をはじめ三〇余の都道府県に、一つの大学を含む初級学校から大学に至るまで二五〇余校、学生数は二万六千余名と教員数九〇〇余名を網羅した教育機関を設置運営しており、また日本の各大学に二三〇〇余名の留学生が在学している。これら教育機関は今日に至るまで、一部の地域と一部の学校を除いて、その大部分が自主的に運営され、したがって財政的基盤が脆弱で、施設の整備、運営の正常化、教員の生活保障などを十分保証できずにいた。そして、多くの留学生たちも学費と生活難によって、正常な学生生活を継続することができなかった。
祖国の同胞は、このように困難な条件下で行われている在日朝鮮人の民主民族教育の成果を高く評価し、深い同胞愛から機会があるたびに、経済的困難を軽減する物質的援助をするために努力をしてきた。
祖国から教育援助費と奨学金が来ることによって、在日本朝鮮人教育は新たな段階に立ったのである。
本教育会は、これを機にすべての在日同胞を愛国的教育事業により一層積極的に参加させ、今日まで達成することができなかった教育財政の確立を期し、学校の施設と整備、学校運営の正常化、教員の資質向上、そして貧しい留学生に対する育英事業の強化など、全般的に教育事業の改善強化に献身努力することであろう。
特に教育費と奨学金の使用については、祖国からの送付の趣旨と祖国同胞のいまだ戦争の傷が癒えない、すなわち物質文化生活も満たされぬ困難な条件下で、送ってくれた格別な配慮であることへの想いを深くめぐらし、一千一里のお金も無駄に使わないことを誓う。
今日、祖国から教育費と奨学金を受け取ったことに際して、本教育会は祖国と在日同胞の期待に報い、自らに課された任務遂行によりいっそう熱意を傾けることを声明するとともに、今後、日本政府をはじめ各界各層の人士たちが在日朝鮮人子女に対してよりいっそうの配慮と声援があることを心から期待する次第である。
一九五七年四月二二日
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