朝鮮学校における教育の情報化 ⑦
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もくじ
統一的な発展を視野に、兵庫県ICT協議会を運営
インタビュー:金錫孝校長 神奈川朝鮮中高級学校
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どのような人材を育てるのか?
金淑子兵庫県でのICT教育への取り組みについて聞きたいのですが。
金錫孝総連二三回全体大会で、二〇一七学年度から初級部で英語を正規の授業として実施する、二〇一八年度から初級部の民族科目(国語と歴史)でデジタル教科書を導入するという方針が示されました。私は、ICT教育の一方で初級部の英語教育の問題も担当しています。方針を受けて準備を進めているところですが、今こそ民族教育の存在価値や育成すべき人材像について活発な論議がなされるべき時ではないかと感じています。
民族教育なので、当然、在日朝鮮人としての民族性をしっかり堅持した人材というのが第一になります。第二にこの時代に対応できる有能な人材。この有能という部分では近年様々な研究がされています。OECDが組織したデセコ(DeSeCo/Definition and Selection of Competencies)プロジェクトによる能力概念「コンピテンシー」の研究プログラムや国際団体ATC21sによって定められた二一世紀型スキル、中央教育審議会答申が定義する「学士力」、あるいは文部科学省が主導する「就業力育成事業」に見られるような大学教育を通じたジェネリックスキル育成などが発表されていますが、これらに共通しているのが、グローバル化社会、情報化社会におけるコミュニケーションスキル、情報運用能力、情報処理能力の重要性です。
民族教育でもこのような能力を育てて行かなくてはなりません。そのためには、まずはICTのインフラを整えなくてはなりません。次にこれらをどのように運用するのか。それを通じてどのような人材を育てていくのか。そのためにわれわれが統一的な見解をもって取り組むことが何よりも大切です。
今後は民族性に加えコミュニケーション能力と英語活用能力、そして情報リテラシーの育成にさらに力を入れていかなくてはなりません。われわれの民族教育ではこれまで民族性の育成で大きな成果を得てきました。この部分ではこれまで築いてきた土台があります。それを引き続き発展させていかなくてはなりません。コミュニケーション能力という部分でも同様です。そのうえでさらに民族教育の価値を高めるために、英語能力と情報活用能力を高めていくことが、今求められているのだと思います。
『朝鮮学校のある風景』39号に、ICT化によって民族教育内に格差が生じるのではないかと憂慮する記事が出ていました。それはあり得ると思います。
兵庫県内の朝鮮学校では、そういうことのないように校長会議で話し合い、兵庫県ICT協議会を設置することにしました。協議会には県内六校の校長、教務主任、ICT担当教員、朝鮮学園の理事長ら約三〇人が参加しています。そこでは、求められる人材像に関する学習をしたり、ICT環境の運用能力を育てるための講習をしたり、ICT教育のための設備の統一性などを話し合ったりします。一〇月に初会議をしました。それまでは校長だけで話し合っていたのですが、明後日(一一月三〇日)第二回会議を開きます。
金淑子校長先生の会議はいつごろから開かれるようになったのですか?
金錫孝校長会議は従来毎月一度開かれていました。
金淑子そこでICT教育について話し合われるようになったのは?
金錫孝やはり定期大会以降ですかね。それまでは学校ごとに進めていました。
担当者異動にも揺るがないシステムを
金淑子神戸初中級学校ではどのように進めてきたのですか?
金錫孝私が赴任したのが一五年前です。当時はインターネットも今のようには普及していませんでした。校内にはネットワークもなくて、コンピュータ室にだけ一本回線が敷かれていました。教員たちはフロッピーを持ち歩いて。そんな中、まず赴任直後に手作業で光回線を敷きました。もちろん有線LANでしたが。予算がないので、同級生の電気屋さんに頼んで私と二人で屋根裏に上って配線して、機械類の設定は私がして。それでも五〇万円くらいかかりましたが、当時としてはかなり安価でした。そういう意味では早い時期からネットワークの構築はできていました。でもこの時はコンピュータ室でする情報授業はネットをつなげてやっていましたが、あとは先生たちが使うだけでした。その後、コンピュータが発展して無線LANが普及し、先生たちも有線よりは無線が便利だということで、知識のある先生たちは勝手に無線ランの機械を置いて使うようになります。そうするとセキュリティーの問題が生じます。すぐに対処しましたが、数か月間、セキュリティー問題が放置された時期がありました。
昨年学校創立七〇周年を迎えて、児童や生徒のハルモニたちが百万円を寄贈してくださって、校内の全館無線化を実施したのですが、セキュリティーと安定性の問題にはこだわりました。
この時配線を一からやり直しました。手作りで配線した後、ここも必要、あそこも必要ということでどんどん付け足して、そのうちに契約会社が変わって大元になる機械が二階から一階に移ったりして、回線が複雑になっていました。私は敷いた本人なのでわかりますが、私が異動になってしまえば誰もわからなくなってしまいます。
同様の問題は今後の民族教育の課題になると思います。この人がいるからわかるけれど、異動になれば誰もわからないという。朝鮮学校はどこも財政難なので、安く上げるために自分たちでやろうとしている学校もあります。けれど私たちは同じ値段で業者に頼む方法はないかと調べました。担当者が変わっても管理者がしっかりとしている状態を作りたかったのです。その結果、業者の管理費や保守点検費などすべて込みで八八万円でできました。大変安くつきました。アライドテレシスというしっかりしたメーカーに頼みました。保守管理は五年間無料です。
金淑子このメーカーは学校関係を主な対象にしているのですか?
金錫孝医療関係が主だそうですが、学校も多く手掛けています。アライドテレシスは、文科省のICT教育導入に伴って、施設企業として指定を獲得したいと思っているようで、学校の仕事に積極的なのです。(明細書を開きながら)値引きが約一三〇万円で、最終的に八八万円になっています。アカデミック対応ということで、半額以下ということです。私たちが何も言わなくても、学校にはアカデミック料金設定というのを出しています。いくつかの業者に見積もりを頼んだのですが、ほかのところは工事込みで二五〇万円、機械代だけで一五〇万円などでした。
金淑子ということは、日本の学校がICT教育を導入しようとしている今の時期に工事するのがいいということですね。
金錫孝そうです。埼玉ハッキョを参考に、朝鮮大学校の河民一先生とも協議して、ネットワークの構造を教員用のネットワーク、児童生徒用のネットワーク、来賓用のネットワークと分けることにしたのですが、そういうことにも対応できるようにしました。それに対応できるかどうか?料金はどうか? 安定性とセキュリティはどうか? ということでいくつかの業者に当たってみて、最終的にここにしました。
この会社を紹介してくれたのは、IT関連の仕事をする卒業生でした。業者に頼むときも、学校側の要求をしっかりと伝えるためには、担当者にある程度の知識が必要です。予算を言えば、予算にあった設計図を持ってきますが、それと学校側の要求を照らし合わせて見られる人がいなくてはなりません。
金淑子使い始めて一年以上たちますが、使い勝手はどうですか?
金錫孝便利です。昨年、七〇周年を記念して青商会がiPad二〇台を学校に寄贈してくれたので、授業で使っています。
兵庫県ICT協議会の役割
金淑子初級部では二〇一八年度から民族科目でデジタル教科書が導入されます。
金錫孝そのためには来学年度内に全国の学校でICT環境が完備されなくてはいけません。兵庫県では、わが校が去年できて、西播が最近工事を終え、尼崎も今年度内にすることになっています。難しいのは単設の初級学校です。西神戸と伊丹の単設初級学校では予算の問題や学校の施設の問題などもあって、今検討中です。神戸朝鮮高級学校の場合は、すべての教室に有線のLANは敷かれています。それを無線LANに切り替える作業が必要です。
兵庫県では、基本的に全校同じシステムにすることにしています。教員たちが異動しても同じ環境で仕事できるように。わが校のシステムをベースに、西播初中、尼崎初中でも同じ形式でしました。教育現場のICTシステムの構築は、中長期的な展望の下で進められるべきだと思います。五年後十年後を想定して、一校単位ではなく、県単位や地方単位で協議しながら、進めるべきだと考えます。
金淑子環境を整えて、運営するうえで、先生たちの反応は?
金錫孝わが校は定期的に教員たちの講習をしているので、教員たちはみな使いこなしています。全教員で少なくても月に一回、そのほかにも幼稚班や低学年、高学年、中級部などの単位でもやっているので、手書の授業案は見なくなって久しいし、教材などは教員用ネットワークに共有して、それを活用するようにしています。運用の部分では心配していません。ただiPadになったときにどのアプリをどのように使うのかという部分で研究が必要だと思います。今いろいろ試しているところだと思います。埼玉も私たちもiPadでロイロノートを使っていますが、ロイロノートを全面的に導入すると決まっているわけではありません。まだ試験段階なので。
金淑子県単位で同じ科目の教員同士の情報交換などは行われていますか?
金錫孝それはまだ十分ではありません。討議されています。授業案、教材の県的な共有をやろうとしたことはあるのですが、教員たちが自分が作った授業案を出すのをためらうんですよね。十年以上前に授業のための資料を共有しようと、全国的なEミレネットを構築しましたが、それでうまくいきませんでした。電子資料を手に入れようとはするのですが、なかなか提供しようとはしないんですよね。すべきだとは思うのですが、障害が多いです。
金淑子それができれば先生たちが楽になると思うのですが。
金錫孝そうです。今の情報科目の教科書ができた時に、すべての写真がすべての学校に配布されのですが、生徒たちが写真を加工する実技をするときなども教科書と同じ写真で実技ができるので、大変便利です。ほかの教科で教科書と同じ写真が提供されることはありません。著作権の問題などもあって難しいとは思うのですが、そういう資料が統一的に配られるようになれば、便利だと思います。教員たちが授業案までは難しいにしても、検索したり、探し出した資料を共有できればいいでしょうね。兵庫県だけでもやろうと何年か前に提案したこともあるのですが、なかなかうまくいきません。授業案は当然、教員がそれぞれ作るべきだと思うのですが、そのための教材、資料を共有できればと思います。
幼稚班でもICT教育
金淑子幼稚班と初級部と中級部がありますが、実際にどのように利用しているのですか?
金錫孝幼稚班では数遊びやことば遊びを積極的に取り入れているのですが、そういう場面で、ICTは効果的です。ゲーム感覚なのでしょうね、よく活用しています。初級部低学年では、教員が使って提示することが多くて、子どもたちが直接機械に触れることはあまりありません。高学年になると、iPadを一人一台ずつ持ってアクティブラーニング形式の授業をします。初級部四年の担任の教員が初級部のICT教育担当なので、積極的にiPadを利用しています。中級部になると、科目によってですね。理科と社会科では積極的に利用しています。文系ではあまり使われていないかな?
教員がPCを活用して授業を直観的に行う努力は科目に関わらず、全ての教員が行っています。
金淑子前回、埼玉ハッキョの公開授業に行ってきました。生徒たちが授業の冒頭でパワーポイントを利用して金星について説明したり、生徒がそれぞれ自分のiPadで画像を見て理解したり、ノートや教科書とうまく併用しているように見えました。ここでもそんな使い方なのでしょうか?
金錫孝すべての教室に液晶テレビがあります。先生のiPadやノートパソコンをつないで使います。少し前に愛校節(バザー)があったのですが、それを知らせるためのコマーシャルを生徒たちが作りました。iPadでビデオを撮って、編集して、発信しています。情報の授業でそういうことをします。
金淑子実際に使うようになったのはいつごろから?
金錫孝去年からですね。埼玉のようにモデルクラスはありませんが、研究教員とよばれる担当教員はいます。
金淑子その先生たちが担当する科目は?
金錫孝中級部の先生は社会ですね。初級部は担任が基本的に全科目を担当することになっていますが、わが校では高学年で教科担任制を導入しています。中級部のように全科目ではありませんが。なので四年生の担任の先生が研究教員だからといって四年生だけがiPadを使うのではなく、研究教員が担当する社会科の授業では高学年全学年がiPadを使っています。
金淑子ICT教育に取り組んでいる先生の感想は?
金錫孝初級部の先生はICT担当になって二年目なのですが、アクティブラーニングやICT教育は、大変効果的で、子どもたちの自主性を高められるが、今のカリキュラムをこなすのは困難だと言っています。時間が足りないと。
金淑子量を減らすべきだということですか?
金錫孝でも量は減らせません。量を減らすとなると、二〇〇〇年代当時のゆとり教育につながってしまいます。なので量よりは方法を研究すべきではないかと考えます。科目数はどうしようもないし、加えて来年からは初級部五年生以上に英語を取り入れることになっています。
金淑子英語は誰が教えるんですか?
金錫孝英語を専門的に学んだ人ということになっています。学校によって違うと思います。朝鮮大学校の外国語学部を卒業して初級部の先生をやっている人も多いので、そういう先生が教えることもあるだろうし、兵庫県の場合は、全初級部にECCから派遣されたネイティブスピーカーがすでに指導に入っているので、そういう人たちとチームティーチングすることになるかもしれないし。英語教育は、全国の初級部五、六年でこれまでも週一時間、初級部英語活動という形でやってきています。今は地域によって差があるようですが、来学年度(二〇一七年度)からは正式教科となります。
金淑子生徒たちの反響はどうですか?
金錫孝今の子どもたちはICTは当たり前の世代です。珍しいものを触る感覚は全くありません。幼稚園の園児でさえiPadを普通に使いこなします、楽しみながら。教育的な効果がどうかというのは、まだわかりません。生徒たちを中心にした授業をする上では効果があると思います。教員の質問に対して、指名されても自信がなくて答えられなかった生徒も、ロイロノートを使えば全員の答えが前の画面に表示されるので、全員が参加するしかありません。恥ずかしさとか不安が介入する空間がないのでいいと思います。
金淑子講義式授業では、十人いれば八人はついていけても二人は取り残されるというのが現実だったと思います。ICTを活用することで取り残しを作らない授業ができるのでは?
金錫孝ネットを通じて一人一人とつながっているので、一人一人の理解度を教員が把握することができます。書けない生徒もいれば間違いを書く生徒もいるけれど、それが誰なのかを教員が把握してその都度、対処することができます。使い方によっては生徒の理解度を把握するのに大変有効だと思います。
保護者の理解を得るために
金淑子保護者の反応はどうですか?
金錫孝日常生活でIT機器に接する機会が少なかったり、他国での失敗例を聞いたりして、不安に思う保護者もいます。紙の本やノートを使わないのではないかと思っている保護者もいますが、それはあり得ませ ん。デジタル機器はあくまで道具の一つで、これから情報リテラシーとか、アクティブラーニングのツールとして使えますが、紙は紙で使います。説明したり、オモニたちの前で講演したりすると、わかってくれる人は多いです。基本的には賛成してくれているのではないかと思っています。だから青商会でiPadを提供してくれたり、ハルモニたちが協力してくれたりするのです。参観授業の時にも意識的にICTを利用した授業をするようにしています。
金淑子夏の朝鮮大学校での講習会で、オモニを対象にした模擬授業をしたとおっしゃってましたが。
金錫孝オモニたちの学習会で、iPadを配って生徒たちがやっている授業を体験してもらいました。
金淑子評判はどうでしたか?
金錫孝良かったです。ロイロノートやピンポンを経験してもらったのですが、自分が参加していると実感しますよね。例えば「ゆとり教育は間違っていると思いますか?」と聞くと六〇~七〇%のオモニが「間違いだ」と答えました。次の問題で「ゆとり教育を説明できますか?」と聞くと、できると答えたのは三〇~四〇%でした。それで「説明できないのに、間違いだと思っているんですか?」と投げかけたのですが、目の前に数字が出ているので、状況が把握しやすいわけですね。だから「あ~あ」って。説得力があったと思います。
金淑子デジタル教科書ができれば、児童・生徒たち一人に一台デジタル機器が必要になりますよね。今、児童・生徒たちは何人いるんですか?
金錫孝全校で一五〇人、初級部は一クラス一〇人前後です。それについては兵庫県の協議会で話し合っていこうということになっています。ハッキョ所有としてレンタルするのか、レンタルして家にも持って帰るときはどうするのか、それとも個人が購入するのか、検討しなくてはいけません。県としては統一見解でやっていこうとしています。埼玉は個人で購入しているし、神奈川は学校が所有するものをレンタルしていると思います。現在は二十台を学校の管理下で、校内だけで使っていますが、今後は家でも使わなくてはなりません。家で宿題をしたり、反転授業の準備をしたりするには個々人が購入するのがいいのか、これから話し合わなくてはいけません。
金淑子家でデジタル機器を使うようになれば、管理に自信がない保護者は不安かもしれませんね。
金錫孝それは管理するソフトがあるので、学校で一括して管理すれば大丈夫だと思います。
金淑子導入で一番むつかしいところは?
金錫孝やはり財政面ですね。もう一つは、どういうシステムを構築するのか、端末をiPadにするのか、クロームにするのかとか、OSはどうするのか、タブレットなのかノートパソコンなのかなど統一する必要があります。利用するアプリもそうです。それについても費用が絡んできます。教育なので、やってみたら失敗だったので替えますというわけにはいかないので、精査しなくてはなりません。本当にiPadがいいのか、中級部ではノートパソコンがいいのか、前人未踏のことをしようとしているので、まだ正解がどこにもない。そういう中でどういうシステムを構築していくのか、どういうふうに運営していくのか、最も考えなくてはいけない部分だと思います。それに伴って保護者の財政的負担が生じます。何よりも教員たちが一致して、運営する能力もそうだし、ニーズにどのように応えていくのか、すべきことは山積みだと思います。テスト校に指定されて一年間こうしてやってきて、ある程度展望を持てるようになりましたが、そこらへんは難しいです。まだ展望が立たないですよ。
金淑子iPadを推す声が高いようですが。
金錫孝iPadは教育向けの無料アプリが多いんですよね。教員たちがICTスキルを高めるための講習や時間的余裕が必要です。教員たちは追われていますから。物理的、財政的余裕が必要です。そう言っていられる現状でもないですが。
よりよい授業を目指して
金淑子今年初め、「gacco(ガッコ)」(大規模公開オンライン講座提供サイトMOOC http://gacco.org/)で東大のオンライン講座「インタラクティブ・ティーチング」を公開していましたが。
金錫孝私もその講座を修了しました。アクティブラーニングについては、結構いろんな学校で工夫しながら研究していると思います。ウリハッキョでも今年一年間、幼稚班、初級部、中級部それぞれの共通した研究課題がアクティブラーニングです。対象によって具体的な内容は違いますが。様々なやり方があるので、勉強会もやっています。
金淑子公開講座は、どうでしたか?
金錫孝面白かったです。あの内容を簡略に整理して教員たちの前でも講義しました。アクティブラーニングはこれからの研究課題です。それ自体が是か非かということもまだわかりません。要は子供たちを自律的な学習者にするということなのですが、ウリハッキョでも「자각적인 학습 기풍(自覚的な学習気風)」と言って以前から力を入れてきました。子どもたち自らが学ぶようにするためにはどうしたらよいのかということは、これまでも研究されてきましたし、今後も続けていかなくてはならないのですが、その流れの中にアクティブラーニングがあります。アクティブラーニングがすべてを解決してくれるととらえるのは誤りだと思います。例えばジグソー法や、シンク・ペア・シェア(TPS: Think-Pair- Share)の方法論などが出ていますが、これをやることがアクティブラーニングじゃなくて、子どもたちを自律的な学習者として育てる教育の総称がアクティブラーニングなので、その辺を間違えてはいけないと思います。アクティブラーニングを学べば学ぶほど私たちが今までやってきたことがたくさんあることに気づかされます。なので新しいものを取り入れるというよりは、私たちがこれまでやってきたことをさらに発展させるということではないかと。
今日も四時間目に研究授業があったのですが、ジグソー法を取り入れていました。研究は常に必要だと思います。そこにIT機器をどのように取り入れるのかというのも今の課題ですね。デジタル機器を使うことが目的ではありません。
金淑子そうですね。でもデジタル機器はアクティブラーニングに有効ですよね。
金錫孝そうです。有効です。このような流れを教員や保護者がしっかりとらえることが大切だと思います。兵庫県ではこのような内容で、教員たちに講演しました。保護者にもわかってもらうために、機会あるごとに説明をしています。兵庫県内では今のところ、同じ見解をもって取り組めているではないかと思っています。こういう道筋をしっかり理解して知らせることは、ICT化を進めるうえでも大きな助けになります。皆が同じ方向を目指して、一緒に段階を経ていくことが大切だと思います。
デジタル教科書という言葉だけが独り歩きして、疑心暗鬼になっている保護者もいます。全体大会でデジタル教科書の導入が決定されて、二〇一八年度には導入されるので、今年中に機械が必要なんですといわれても、保護者側は必要性がよくわからない。デジタル教科書なんかできるのかと、かえって不安になる。情報リテラシーの育成のためにこういうものが必要なのだとちゃんと説明すれば解ってもらえるはずです。説明するためにはまず教員たちがしっかりと一致したビジョンを持たなくてはなりません。
金淑子保護者の不安の声をよく耳にします。
金錫孝パラダイムシフト(ある時代・集団を支配する考え方が、非連続的・劇的に変化すること。社会の規範や価値観が変わること)が起こらなくてはいけないと思います。今、その過渡期の真っ最中ではないでしょうか?私たちはパラダイムシフトが起これば退く世代だと思います。私たちにできることは、今、その方向性をしっかり示すことだと思うのです。それが私たちの役割だと思っています。コペルニクスが地動説を唱えて、パラダイムシフトが起こるまで百年も二百年もかかったわけですが、彼がその方向をしっかり示したから起こったと思います。
金淑子そのために常に勉強を怠ってはだめですね。
金錫孝仕事に追われて忙しい中でも、心ある先生は生徒たちのために常に新しいものを求めて講習に目的意識をもって参加し、勉強もします。
金淑子底上げが必要ですね。
金錫孝兵庫では学校ごとに月一回から二週間に一度、ICT技術向上や協議会で話し合ったことの説明のための講習会を実施しています。そういうシステム作りが大切だと思います。ビジョンとそれを実現するためのシステムが求められているのです。誰もが夢を見たいし、それを夢で終わらせるのではなくて、現実にするためのシステムがあれば、保護者は子どものために、夢を実現しようと賛同してくれるのではないかと思います。教員たちも夢があるから続けるのです。
私はこの学校の校長ですが、この学校一校のための働いているつもりはありません。少なくとも兵庫県下の民族教育のことを考えて働いているつもりです。兵庫県の校長たちはみな同じ気持ちだと思います。教員同士のつながりも強くて、互いに相談もしょっちゅうします。(2016年11月)41
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