今どきの朝鮮高校生
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雑感・東京中高でのいくつかの出来事
近くに来たので昼食でもと、東京中高へ。下校する生徒とすれ違う。男子生徒は早口での「アニョハシ…」、語尾は聞き取れない。
午前中だというのに校門を出ていく生徒が多い。学期末の試験中? 声をかけると、「明日から冬休み…」。この日は、終業式だったのだ。
運動場では、生徒たちが走り回っている。ユニフォームがカラフルだ。部活はつづいているようだ。
校長室へ。校舎に入ると、ここでも男子生徒は「アニョハシ…」、「スゴハシムニダ」と頭を下げる女子生徒もいた。
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秋の開校七〇年記念イベントのことが話題に。「うちらの同級生…めだったのでは…」。舞台に上がって合唱する様子が「朝鮮新報」に写真とともに紹介された。慎校長は、七〇周年の記念行事と同級生の近況をつづった手紙を共和国で暮らす同級生に送ったと。「『イオ』にも…」というと、まだ見ていなかったのか、さっそく教員室に雑誌を取りに行っていた。
同級生から送られてきた手紙を読んでいると、「高〇の○○○です。…入ってもいいですか?」とドアをたたく音がし、生徒が入ってきた。
校長室の隅にカバンを置くと、姿勢を正し慎校長と話しはじめた。
しばらくして。
私・「何年生?」
生徒・「高三です」
私・「来年卒業? どうするの?」
生徒・「アメリカに行きます」
「アメリカ?」
思いもしない答えが返ってきた。
「留学? どこの大学?」、「まだ…サッカーの…」。
三月に渡米し、ボストンか、オハイオで行われるサッカーの「選考」に参加し、そこでピックアップされたらどこかの学校に入学できるという。
「英語は?」、「全然…」、「不安は?」、「まったく…」。
三人兄弟の次男で、兄はボクシング部のドキュメント映画「ウルボ」の主人公の一人で、一昨年卒業し、妹は在学している。家で反対はないとも。慎校長は「私は賛成していない…」と言っていた。
彼は「今からわくわくしています」、「必ず東京朝高の名誉をとどろかします」という言葉を何度も繰り返していた。
「アメリカでの生活を書いて送ってくれたら…」、二つ返事だ。写真も撮らせてくれた。ブレザーは着ていない。長袖のワイシャツ、ボタンダウンだ。「みんなは襟のボタンをはずしているけど、私はきちんと…」。とはいっても、ズボンのベルトは腰の下、昔ながらの朝高生スタイルだ。
「サインは? 将来的に?」。彼にいわれるままにノートを差し出すと、まずウリマルで三文字、そして漢字でも書いてくれた。
「漢字も書けるんだ」とからかうと、「立派な民族教育を受けましたので…」との答えが戻ってきた。
「校長先生、今年年賀状を送ったのを覚えていますか?」
校長は困り顔だ。「漢字で一文字書きました。今年も…」。
彼は私にも送ると言っていたが、どこまで本気で、どこまでが冗談なのかわからない。
「また報告に来ます」。この一言を残して出て行った。特別な用事はなく、ただなんとなく校長の顔を見に来たようだ。
下駄箱の前で靴を履き替えていると、運動場に向かう二人の生徒に遭遇。ユニフォームからすると、サッカー部のようだ。なぜか、二人とも片手に成績表を持っていた。
「見せてくれる?」と声をかけると、「いいですよ」。
いくつか「5」(10点満点)。「総合評価」の欄には「普通」というゴム印が押されていた。
私・「ウリハッキョのハクセン(児童・生徒)はみんな優等生か最優等生だと思っていたのに…」
彼・「そんなことありませんよ。三分の一は…」
あっけらかんとした答えがかえってきた。その顔は「勉強はそこそこでも、サッカーは負けません」と言っているようだ。
もう一人の生徒の「総合評価」は「優等」だ。
一学期は最優等。「家に帰ったらなにか言われるのでは…?」と話していると、先生が近づいてきた。
その先生も成績表を見て、あららという顔をしていた。元来、できる子のようだ。
二人は手を大きくふって、運動場に向かって走り去っていった。
食堂には灯がともっていなかった。
校舎を出ると、天気予報では雨は夜半からと伝えていたのに、ぱらつき始めていた。何人かの生徒が傘もささずに校門に向かっていた。
運動場の方から、校内で着る第二制服のチマチョゴリを着た三人がビニール袋を載せた段ボールをひきずってきた。近づいて袋の中を見ると、落ち葉だ。スマホを向けると、「キャー」と歓声を上げながら、笑顔とVサインだ。そして「パンガッスムニダ」に「コマッスムニダ」。
校門横の旧校舎からの民族器楽の音色が心地よく胸に響いた。
終業式の日に出会った、とても無謀で、それでいて愛校心に満ち、あっけらかんとして、物おじしない、底抜けに明るい、そんな「今どき」の朝高生たちに元気づけられた。(編集部 2016・12・22)41
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