民族差別に憤り朝大へ進学 卒業生に、教育者の矜持感じる
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インタビューを終えて
金淑子・「記録する会」
一〇月半ば、武蔵浦和の駅で待ち合わせて、昼食をごちそうになり、しばらく散策した後、木に囲まれた風情のあるコーヒーショップで話を聞いた。
退職した後は、木を見ながら散策することが多くなったという。必ずしも環境がいいわけでもない。山火事が起きても逃げることもできない。そんな中で千年以上の歳月を生き延びた大木も、最初は小さな種だったという話を聞きながら、何気なく見ていた一本一本の木に秘められた物語を想像してみた。
高度成長期の一九六〇年代、周りの友人たちが次々と就職先を決めていく中で、試験さえ受けさせてもらえない不条理を前に、それを誰かに訴えることもできない悔しさ、前途を遮断されたような絶望感を救ったのが、朝鮮大学校だった。「専門分野で積んだことも大切だけれど、大学生活を通じて世界観、人生観の基礎を築いたことがより大切かもしれません。私はそういう面に力を入れてきました」というのは、そんな体験ゆえなのだろう。五〇年経った今も、在日朝鮮人に生まれたことを肯定してくれるところは朝鮮学校だけという状況は、変わっていない。大企業への就職の道は開かれつつあるが、日本人と一緒にいるときに「北の核」や「従軍慰安婦」のニュースが流れると、気まずくなって、押し黙らざるを得ない、それが現状だ。
朝鮮大学校の理工学部の卒業生には、長い期間、朝鮮学校の教員として活躍している人が多い。それだけでなく日本の大学院に進み、朝鮮大学校はもちろん日本の国公立や私立の大学で教えたり、研究所で研究を続けたりしている卒業生も多い。IT企業で活躍する卒業生にもよく会う。同大学が出している冊子『LINKS!』によると、二〇一一年度から二〇一五年度の同学部の卒業生の進路は、教員28%、進学24%、次いでIT関連企業(17%)や信用組合(16%)への就職となっている。
東大大学院に進んだ二〇一三年度の卒業生は「先生たちの熱心で丁寧な研究指導や講義はとても素晴らしく、日本の大学と比べてもその水準は高いと思う」(『LINKS』)と述べ、二年前に同大軽音楽部の座談会で話を聞いた理学部の学生たちは、優秀な先輩や友人が多くて、勉強についていくのが大変だと話していた。
専攻科目のレベルの高さを支えているのは、授業だけではないようだ。集団生活を通じて「何のため、だれのために勉強するのかなど将来の夢や目標について考える機会が増えるので、普段の生活や学習に対するモチベーションを養うことができる」(同上・同学部四年生)という。そんな環境やライバルと切磋琢磨できる日常が、大きな力になっているようだ。
「朝大に行きたいけど、親は反対するはず」という高級部生徒の話を時々聞く。朝鮮大学校に送って、子どもが自立できるだろうかと不安を抱く保護者は多いようだ。地方の学校の財政難や日本社会の朝鮮学校に対する差別的扱いを考えると当然だ。
しかし時代は変わりつつある。英オックスフォード大学でAI(人工知能)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授は、「今後一〇~二〇年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いという結論に至った」という論文を発表して注目を集めている。そんな中で生き残るために必要なもの、それは実力と友人ではないだろうか?
「どういうふうに子どもを育てるのか、親は誰も四六時中、頭を悩ませています。でも自分の経験の枠の中だけで育てられるものではありません」という金建秀先生の話は示唆に富んでいる。「特に今の学生たちは昔の学生に比べてのびのびと生活している。朝鮮大学を出ると人生が束縛されるのが反対なのか。教員をやれと言っても本人が絶対に嫌だといえばやらせられません。無理矢理送ったところで長く続きませんから」とも語っている。朝鮮大学校も時代の変化とともに日々変わっているのだ。
一〇年後、二〇年後に活躍する子どもたちが、夢をはぐくみ、実力を培える環境を考えるとき、子どもが理数系を得意とするなら、朝大理工学部は有力な選択肢の一つになるのではないかと、最近の取材を通して感じている。40
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