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「猪飼野(いかいの)セッパラム文庫」を開設して
金どんなきっかけで文庫を開設されたんですか?
こうのすけ「猪飼野」は古代から朝鮮半島からの渡来人も多く、戦前戦後、東成区・生野区にまたがった地域の地名で、在日朝鮮人の集住地域として知られました。しかし、一九七三年に町名改正で、地名としてはなくなりました。また、一九八〇年代から九〇年代にかけてこの付近には「猪飼野朝鮮図書資料室」「学林図書室」「青丘文化ホール」「カラ文化情報センター」など、朝鮮韓国在日に関する専門図書館等がありましたが、様々な事情で今はありません。そこで、この「猪飼野」に隣接した天王寺区細工谷で、民家を利用して、誰もが利用できる、新しいみんなのまちの人権図書館をということで、「猪飼野セッパラム文庫」(セッパラムとは朝鮮語で「東風/こち」を意味し、「新しい風」の意味ももたせている。かつて、大阪北部の箕面市で「みのおセッパラム」というまつりにかかわっていたこととも関係する)を開館しました。
中でも、「猪飼野朝鮮図書資料室」は一九七〇年代後半に、大阪外大朝鮮語学科で教えていた塚本勲さんが非常勤講師や大学院生のみなさんと開設し、本を公開して、当時まだ学ぶ機会の少なかった朝鮮語講座を開講していました。僕も二回生のころから門前の小僧のように土日は当番で座っていたりしたんですが、それがあったからこそ、今こういうのをやっているんですよ。
関東ではずいぶん後発の「文化センターアリラン」「高麗博物館」「在日韓人歴史資料館」が活発に活動しています。日本軍「慰安婦」問題に特化した「WAM(アクティブミュージアム 女たちの戦争と平和資料館)」もあります。「在日韓人歴史資料館」は開設前の準備委員会からかかわっていて、朝鮮大学校「在日朝鮮人関係資料室」や朝鮮総聯の「在日朝鮮人歴史研究所」ともいずれは連携を持ちたいと思っています。
金現在、大阪で朝鮮関係の資料館はここだけですか?
こうのすけここだけといってもいいんじゃないですかね。「リバティおおさか(大阪人権博物館)」と「ピースおおさか(大阪国際平和センター)」という人権・平和をテーマにしたところでも朝鮮関係を扱っていたけど、橋下維新の圧力によって様変わりして、機能不全に陥っています。「リバティおおさか」は大阪市から出て行けといわれて裁判になっていますし、「ピースおおさか」は空襲被害を強調したミュージアムに改変されてしまって、アジア侵略の展示がなくなりました。
金文庫の利用者はどうですか?
こうのすけ毎週土曜日の一時から五時に開館しているんですが、少ない時で三人くらい、多い時で十人くらい、月一回、コリアン・マイノリティ研究会をやるときは十人から二十人くらいですかね。それ以外に「映像で見る朝鮮韓国在日」上映会をやってそれに十人くらい、そして時たま大学のゼミで一〇から三〇人の団体での見学などがあって、ひと月で四〇~五〇人くらいでしょうか。この数を増やしたいです。特に若年層、高校生・大学生に来てほしいですね。
金いつ頃始めたんですか?
こうのすけここには昨年二〇一五年のゴールデンウィークに引っ越してきました。それまでは大阪市東淀川区の自宅の横の古い一軒家を借りて、二〇一〇年から「陰陽連絡線セッパラム文庫」というのをやっていたんです。
国鉄の山陰線と山陽線を縦につなぐ鉄道が兵庫県・岡山県・広島県・山口県といくつかの県があって、それを総称して「陰陽連絡線」というそうです。僕は世の中は陰と陽がうまくバランスが取れて、中庸で、丸く収まるということを理想にしていますから、陰と陽をつなぐ、これは朝鮮人と日本人でもいいし、女と男でもいいし、マイノリティとマジョリティでもいいし、そういう意味で家を借りてやっていました。五年間の契約期間が来て、家をつぶすので出て行ってくれということになって。あちこちで会場を借りてやっていたコリアン・マイノリティ研究会も文庫ができてからはそこでやっていたんですが、行き場がなくなって。いろんな人に声をかけて探してもらったら、近々取り壊しになる四階建ての雑居ビルの三フロアを借りられるようになって、四ケ月いたんですけど、そこも取り壊しで出なくてはいけなくなりました。そんな時、たまたま知り合いが、奈良に引っ越すことになったので、天王寺区にある空き家を社会的なことに利用してもらえればと言っている人がいるのでどうかと言ってくれました。これには藁にもすがる思いでお願いして、即決しました。オーナーの言葉に甘えてかなり優遇してもらっています。しかし、ここもいつまでもいるわけにはいかないので、文庫を運営しつつ、いまも次の移転先を探し中です。
ここにある本は基本的には、学生時代から集めてきた僕の蔵書なんですけれど、ここに越してきたときに、寄付をしたという形にして、みんなのものであるという形をとりました。本を買う予算も取れないので、いろいろな方から寄贈していただいています。『在日文学全集』全八巻(勉誠出版)も同志社の隣にある牛丼チェーン店のオーナーからいただいたものです。高価だし、すでに在庫もないので、大変貴重なものです。当面の大きな課題は年会費六千円の会員拡大です。
毎週月・木にメールで配信している「朝鮮韓国在日・これからの催し」の案内はいろいろな内容を含めて流しています。
小さくてもいいから続けて、次の世代にバトンタッチしていきたいと考えています。こういうことをやっていると年上の友人たちから、自分の蔵書をどうしようかと思っていると相談を受けるんですよね。みんなそのことで悩んでいて、資料置き場のために別に部屋借りたりしているんですね。ガレージにおいていて、湿気が来たり、悲惨なケースもあります。こういうことをふまえて、「猪飼野セッパラム文庫」をみんなで共同運営できないかなと思案中です。いつか猪飼野でもっと広いところにライブラリーとミュージアムを兼ねた施設を作れたらなあと思います。
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