名古屋朝鮮初級学校、運動会を見学して 夢想したこと
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牧野佳奈子・多文化市民メディアDiVE.tv代表
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小雨の降る六月の第一日曜日、名古屋朝鮮初級学校の運動会におじゃましました。
「昔の日本の運動会のような雰囲気ですよ」と聞いていたのだけど、そのあまりの楽しさに思わず涙がポロリ、こぼれました。
まず大人が参加する競技がすごく多くて、学校の運動会というよりむしろ町内体育祭のよう。雨上がりのグラウンドで、お父さんもお母さんも転ぶ転ぶ…。子どもと同じくらい泥まみれになってはしゃぐ姿は、気分爽快というか…愉快痛快というか…いつの間にか私も親戚になったような気分で笑い転げていました。
特に面白かったのは障害物リレーで、黄色いゼッケンの言葉に当てはまる人を探す時。「メガネ」とか「かっこいい男」とか地区の名前とかが朝鮮語で書かれてあり、リレーを見守る大人たちは、自分に当てはまるゼッケンの子を見つけるや「よっしゃ〜!」と言わんばかりに飛んでいき一緒に走るのです。全然知らない子に対しても。
それはそれは微笑ましい、とってもあたたかい光景でした。
だけど目頭が熱くなるほど感動したのはそれだけじゃなくて、私は、子どもたちや親御さんたちの弾けるような笑顔をファインダー越しに眺めながら、本当に何度も心を震わせていたのです。
多分それは、在日コリアンのコミュニティについて今まで断片的に聞きかじってきた様々なことが、ようやくつながって胸の中にストンと落ちたからなんだと思う。
朝鮮学校を維持する大変さや、先生方の苦労、政治問題に対する複雑な思い、葛藤、悔しさ、そして悲しみ等々…それらは文字にするとあまりにチープだけれど、とにかく在日コリアンの人たちは戦後七〇年という長い歳月を「学校維持」のためにひたすらがんばって生きてきました。その本当の意味合いを、あるいは必要性を、運動会にあふれる笑顔の中に見出したような、そんな気持ちになったのでした。
日本における外国人学校は、それが義務教育期の子どもが対象であっても、いわゆる専門学校と同じ扱いです。経済的に立ち行かなくなれば、簡単につぶれてしまう。
日本の教育をしていないのだから日本政府がお金を払わないのは当然でしょ、という論理は一見筋が通っているように思えるけれど、日本語や日本の歴史を含む授業を子どもたちが懸命に受けている現場を見れば、「日本式じゃない教育」の一体何が悪いのだろう…と根本的な疑問がきっと誰にでも湧いてくるのではないかと思います。
私は先月、朝鮮学校の授業を取材させてもらい、その疑問がより一層強まりました。
特に日本語の授業のハイレベルなこと! 私がたまたま覗いた五年生のクラスは、日本の新聞社説を題材にメディアリテラシーについて学んでいました。
先生「ここに書かれてあることは、正しいと思いますか?間違っていると思いますか?」
生徒「…正しいと思います」
先生「どんな情報も、全てが正しいということはありません。書いた人の立場や見方が反映されています。ですから自分の意見をしっかり持った上で情報を得ることが大切なんですね」
私が小学生だった頃は新聞もロクに読んでいなかったような…。ましてやリテラシーなんて! 今は日本の学校でも教えているんでしょうか。どうせなら愛知県庁の立派なシャチホコの上から巨大スピーカーで読み上げてもらいたいと私は思いました。日本人が真面目にメディアリテラシーを学べば、この国は随分良くなると思うのですが。
それはそうと、私のような純血に近い日本人が朝鮮学校を肯定発言するというのは、結構勇気が要ることです。少なくとも私は、これまでブログにもFacebookにも一切書いたことがありません。民族教育は大切だと頭では分かっていても、心はどうしてもモヤモヤするのです。
恐らくその理由は三つあります。一つは民族的マイノリティの人たちとの接点が少なすぎて想像が及ばないこと。もう一つは、すぐに敵と味方に分けたがる日本人の国民性および社会風潮に、自分自身が心のどこかで怯えていること。最後に、朝鮮あるいは在日朝鮮に関する情報の真偽が、本当に「分からない」ことです。
このモヤモヤを晴らすのは容易ではありません。が、最も手っ取り早いのは運動会を見学させてもらうことではないかと、私は率直に感じました。
きっと国会議員や地方議員や市長や教育委員会の人たちも、そうしたモヤモヤ感を多かれ少なかれ抱いているのではないでしょうか。だったら彼らこそ、「朝鮮学校は大切だ」と声高らかに公言できるようになるまで運動会に出席した方がいい。助成額の議論をするのは、むしろその後でもいいのではないかと思います。
近い将来、朝鮮学校の運動会で教育委員会の職員が校長先生と肩を並べて子どもたちの入場行進を眺め、(こっそり)酒も呑み交わす日がきたらどんなに素敵でしょう。
当たり前にあり続けるのではない運動会で、すっかり晴れ渡った空を見上げながらそんなことを夢想しました。
朝鮮学校、マンセー! マンセー!マンセー!(2016・6・15)
牧野佳奈子・フリーランスのフォトライターで、平和・人権・地域づくりなどについて国内外で取材活動を行っている。元テレビ報道記者。昨年、インターネット動画サイト「多文化市民メディアDiVE.tv」を立ち上げ、愛知県内に住む外国ルーツの人たちが自らの生活文化を日本人に向けて発信するプロジェクトを進行中。その他、朝鮮を含むアジア六カ国のこどもキャンプを行っている団体「NPO法人こどもたちのアジア連合」の広報理事も務めている。38
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