朝鮮学校における教育の情報化 ④
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インタビュー康相秋先生 東京朝鮮第6幼初級学校校長
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ICT器機ならではの効果的利用法の研究が必要
授業に効果的なICT器機求めて
金淑子六月二五日に行われた埼玉朝鮮初中級学校の研究授業に参加した感想は?
康相秋埼玉らしい研究授業だったと思う。埼玉は、ほかの地域にはできないICT教育活動を展開している。地元の青商会の存在が大きい。青商会がICT教育にどれほどの力を注いでいるのか、埼玉ハッキョを見るとよくわかる。協議会を作って組織的に進めている。その過程で教員の意識も変わって、何とかICTを活用しようと努力している様子がうかがえた。
ICT授業の形態など、これから研究しなくてはいけない課題はいろいろある。ICT器機を使うことに気をとられて、授業の目標を達成できないこともある。準備が必要だ。何よりも必要なのは、授業力だ。授業力のある先生がICTを活用すれば、より良い授業になる。ICTを活用する前に授業力を高めるための努力が必要だし、さらにICT機材を利用してそれを磨いていかなくてはならない。私たちも使いながら模索中にある。
金初級部における教育の情報化のスケジュールについて教えてほしい。
康中央教育局では二〇一八学年度から四年生の国語と図工でデジタル教科書を、四、五、六年生のそれ以外の科目ではPDFのデータでできた教科書を導入しようと準備を進めている。
デジタル教科書は、一般的に拡大機能や音声再生機能、アニメーション機能、参考資料機能、書き込み機能などを備えている。国語と図工のデジタル教科書もそのような機能を備えたものになるはずだ。PDFファイルを利用した教科書は、拡大したり、下線を引いたりはできるが、デジタル教科書のような機能はない。
金デジタル教科書を導入する二〇一八年まで一年半だが。
康デジタル教科書は、学友書房や国語の先生たちからなるデジタル教科書推進委員会がウリナラの協力を得て作成中だ。来年にはいくつかのモデル校で導入される予定だ。
同時に私たちICT推進委員会では、教育の情報化をどのように進めるべきかということをいろいろ研究している。その中で私は、情報教育に役立つ器機をいろいろと調べている。
たとえばこれはインタラクティブユニットといって内田洋行が二〇一二年度に販売したものだが、これを利用すれば液晶画面を電子黒板のように使える。コンパクトで、マグネットで手軽に取り付けられて、これが発するセンサーで、指で拡大したり、クリックしたり、ペンで書き入れたり、電子黒板の機能が付加される。発売当時は一四~一五万円していたが、ネットで中古品を探すと二万円を切っていた。私が買った時は残り二〇台になっていたが、他の学校の先生に紹介するとほとんどなくなってしまった。プロジェクター用のユニットもある。
こちらはマイクロカメラだ。Windowsでも、アンドロイドの携帯でもソフトを入れておけば、こうして被写体を拡大して映し出してくれる。プロジェクターにつないで、児童たちに見せることもできる。顕微鏡の代わりにも使える。二千~三千円でも買えるが、これは解像度が高いので六千円くらいする。こっちは三メートルのコードがついていて、下水管の中を見たりするのに使われるが、これも何か授業に応用できないかと考えている。 こういう情報を集めて、自分の授業で検証して、紹介する担当だ。
デジタル教科書を作って検証したりもしている。これは現在の初級部四年の日本地理の一部を電子化したものだ。去年、夏休みを利用して下準備し、およそ一学期分を授業の準備と並行して少しずつ電子化した。始めはPDF化しようとしたのだが、あまりよくないので、打ち込んで作ることにした。図や写真はコピーして拡大したときにどれくらい見えるのか確認して、大丈夫ならそのままペーストして、色を塗りなおすなど加工を加えた。( )の空欄をクリックすると正解が表示されたり、南沖島や、与那国島などを具体的に教えたいというときには、写真をクリックすると、拡大されて、右上に位置を示す地図が出たりする。こうして台湾の近くにあることが分かる。写真を拡大すると、沖ノ鳥島は海面より地表が低いので、埋没しないように囲っていることがわかる。
去年、実際にこの教科書を使って、授業をした。
金子どもたちの反響は?
康良かった。
金これをほかの学校の先生たちと共有しているのか?
康紹介はした。ファイルを渡したが、どれくらい活用されているのかはわからない。
これまでの視聴覚教材よりもより鮮明でリアルな視聴覚教材を追及している。初級部の段階でのタブレットの利用方法は研究中だが、まだ結論には達していない。タブレットをどのように利用すれば、児童たちの学習能力が高まって、友達同士で情報交換して、個人的に学習する気風が作られるのか、そんなレベルまでもっていくためにはどういう方法が有効なのか。デジタル教科書はもちろんだが、それ以外にコンテンツ、アプリケーションをどのように利用するのか、ということをいろいろ考えているが、まだ結論には達していない。
児童数など実情に沿った利用法の研究を
金東京第六幼初級学校のICT教育の現状は?
康無線ランによるインターネット環境は構築されている。業者に頼まないで、基本的に私が業務用のサーバーを買ってきて設置した。今はまだ児童たちがそれぞれタブレットを持った授業を実施していないので実証されていないが、無線ランで五〇台くらいは同時につながる環境がある。
大型液晶は50インチのものが、低学年に一台、高学年に一台、幼稚班に40インチが一台、理科室に電子黒板が一台、それに先ほど紹介した液晶画面用の電子黒板ユニットと電子黒板機能が付いたプロジェクターがある。だから電子黒板が三台あることになる。
ICT器機の設定や監視は私がして、教務主任と共有するようにしている。昨年は全教員を対象に、八回講習会を開いて、授業でICT機材を使いこなすための方法論的な問題や機材に関する解説をした。
金先生たちの関心は大きい?
康十人十色だ。興味を持っている先生もいれば、ある場面で興味を持っている先生もいる。私はこの授業のこういう場面でICTを利用したいというふうに興味をもつ先生が多い。
初級部では、一時限の授業で三分間でもICT機材を使えばいいと思っている。積み重ねていけば慣れていく。慣れれば、この授業ではこういうICT機材を使えば効果的じゃないかとか、ネットワークを使って児童たちとこういう受け答えをすれば効果的かもしれないとかいろいろアイデアも浮かぶ。
たとえばウリハッキョのような少人数クラスの学校では、各児童がタブレットでネットワークにつながっていなくても、児童がホワイトボードに書いた答えを、教員がタブレットで写して電子黒板に映し出せばいい。埼玉の研究授業で、子どもたちの答が瞬時に表示される「ピンポン」というアプリを使って授業をしていたが、人数が少ないとホワイトボードを使うのと時間的にそれほど変わらない。埼玉の研究授業では、一つのグループが突然インターネットにつながらなくなると言うアクシデントがあったが、無線ランというのは常に安定しているわけではないので、常にそういうときの対策が必要になる。ならば少人数クラスでは、始めからホワイトボードでいいのではないかと言うことになる。ICT機材を使うためには、他のものには望めない効果的な利用法が必要だ。「ピンポン」はいいアプリだし、利用したいとも思っているが、クラスの規模や実情に応じて、そのアプリを利用しないとできないことは何なのかをもっと追求しなくてはいけない。今は使いやすいものを使っているが、それが終着駅ではない。まだ始まりに過ぎない。
金始めてみないとわからない。
康そうだ。始めて、失敗して、検証してそれを繰り返していかなくてはならない。失敗というのはその授業自体が失敗というわけではなく、ICT機材でしかできないことを追求するという意味で、極めていくと言うこと。たとえばプログラミングなどはICT機材を使わないとできない。
どのタブレットを購入すべき?
金現在学校で準備しているタブレットは?
康三台ある。個人的なものが二台あるので、五台は使える。グループ学習なら利用できる。ただグループ学習でICT機材を効果的に利用する方法はまだ見いだされていない。
金他の学校で、どのタブレットを導入すべきか頭を悩ませていると言う話を聞いたが。
康推進委員会の中ではiPadを推す声がある。iPadに対応した教育ソフトが多いので、確かにいいが、ただ値が張る。教科書として利用できるものとなると最低でも五万円以上する。Windowsの、落としても壊れないという学校用のタブレットというのもあるが、これは需要が少ないのでさらに高価だ。デジタル教科書以外にいろいろアプリを使うにしても、児童にそんなに高価なものが必要だろうかと思う。
中級部と違って初級部では、反転授業などはむつかしい。研究次第で、高学年の一部分で導入できるとは思うが、中級部くらいにならないと本格的には難しい。初級部の段階では、ICT機材に慣れて、ICT機材を使って勉強するのは面白いし、よく頭に入ると感じるくらいでいいのではなかと思う。今、学友書房が作っている教科書はマルチプラットホーム(OSを問わない)ということなので、アンドロイドなどもう少し安価なものでもいいのではないかと考えている。普通の一般的なタブレットの中古でもいいのではないかと思っている。これはアンドロイドで7インチ、教員が片手にもって授業するにはいいが、児童が教科書として活用するには最低10インチ必要だ。これが新製品で三万円。容量が32ギガ、RAMが2ギガ。容量が足りなくてもアンドロイドはSDカードが使える。
求められる導入のための教材研究
金先生たちはICT機機をどれくらい利用しているのか?
康パワーポイントと映像、一部で私が電子黒板を利用しているくらいかな。初級部二年の算数で画面に一〇〇〇個のいちごを映し出して一〇個ずつマジックで囲んでかけ算を習ったり、数字の順番通り線をつないでいくと絵が仕上がるというアプリを使ったり、プリントを画面に映し出して解いていったり。
金教員同士の情報交換は?
康例えばラインのグループでの情報交換、それは教員たちがすでにやっている。バスとバスの補助の担当がいて、バスに乗らない生徒が毎日のように変わるので、ラインのグループを作って情報を交換している。若い先生たちはICT機材を全く使っていないと思っているが、実はたくさん使っている。ところがいざ授業のためにこういうことを紹介するとちょっと後ずさりしてしまう。自分にはむつかしいのではないかと。
金今、最も大きな問題は?
康タブレットをいかにして購入するのか? 少なくても、二〇一八年度までに四、五、六年生全員のタブレットを準備しなくてはいけない。ほかの学校ではひと月千円ずつ積み立てればどうかというが、東京都内では今年、運営費を引き上げた。都内の運営費を統一するために。引き上げたうえにタブレットを購入するので、さらに千円出してくださいとは、言えない。限界に来ている。でも何とかして揃えなくてはいけない。
金初級部でICT教育の課題は?
康デジタル教材を効果的に使うために教員たちと教材を研究していく必要がある。低学年や高学年の単位で集まって意見を交換しながら、数年かけてやらなくてはならないと思う。時間がないなら、夏休みに授業要綱を見ながら、どの部分でデジタルを導入すれば効果的なのかを確かめていかなくてはいけない。そうなれば私もアドバイスできる。皆で共有することが大切だ。中央や地方で行われる教育方法研究会の科目分科で目標を掲げた分科もあると思う。すでにスタートしているところもあるはずだ。(東京第六理科室にて=2016・7・11)38
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